留学生がみたリアル中国
2013.05.14(13:44)
【留学生がみたリアル中国】
パトカーで遊ぶ警官夫婦、学割目的「ニセ学生証」、足投げ出すレジの姉さん、ハエが湧く「おでん」…日本とはあまりに異質で微妙な中国“価値観”
2013.4.27
今年2月に大学の冬休みを利用して中国四川省成都市を訪れた際、非常に驚いたのが、街にゴミがほとんど落ちていないことだった。「道路はゴミ箱」がスタンダードな中国にあって、これがいかに奇跡的なことか。
異質…ゴミが落ちていない成都市
しかも、成都では北京のように観光地や官公庁周辺だけがピンポイントできれいなのではなく、地元民しか通らないような路地裏まで含めて街全体が清潔なのだ。
加えて、人々が律義に信号を守る。街中で大声を出す人も少ない。福建省から成都に移ってきたというタクシー運転手は「成都人はみなモラルが高くて、ポイ捨てする人はほとんどいないね」という。「中国は広い」という言葉を実感した。
逆カルチャーショックを受けた私は北京に戻り、「成都人異質論」を周囲に言って回っているのだが、残念ながら当の成都出身者も含めて、明確な賛同は得られていない。
たまたま私がみた場所、出会った人々がそうだったのだろうか。成都人は、中国人が軽視しがちな系統的思考や物事の保守管理を重視している気がした。大ざっぱで開けっ広げ、あっさりしている黄河沿岸の北方人と比べて、感性も繊細で、なんとなく日本人に近い感じがしたのだが。
偽の学生証
中国で全体的に感じるのは、社会の規範意識の緩さ。取り締まる側の官からして緩いのだ。1カ月間中国語を学んだ陝西(せんせい)省西安市内の大学で、学生寮を兼ねたホテルの駐車場に、いつも警察車両が数台止まっていた。
「留学生の監視でもしているのだろうか」。不思議で仕方がなかったが、ある日、日本人留学生が教えてくれた。
「彼ら、遊びに来てるんですよ。本人に直接聞きましたから間違いないです」
そういえば、西安の街中で、パトカーに乗った私服姿の夫婦らしき2人が痴話げんかしているのを目撃したこともある。
警察車両の私的利用など日本だと大問題になってしまうだろう。韓国人留学生にこのことを伝えても「ありえねー」と同じ反応だった。
また、公安関係者に知人を持つ日本人の話によると、車検や建築物などの検査部門で、賄賂が大いに幅を利かせているらしい。
官からしてこうなのだから、民間は推して知るべしだ。
大学院生の友人が、学生証をみせてくれた。思わず口から出たのは、「それ、うちの大学の学生証じゃないやん」。友人はあっけらかんとしてこう言った。
「買ったんだ」
中国では他校の学生証が買えるのか。聞けば、大学院生の学生証では、観光地の入場券などを購入するときに学割がきかないらしい。大学の学部生ではない若者向けに、この「偽学生証」が売られているのだという。
某大学の東門に行けば、その“密売人”が「学生証いる?」と声をかけてくる。自分の好きな大学の学生証が選べて、持参した自分の証明写真をその場で張り付け、偽のスタンプを押して一丁上がりだ。
「学生証の偽物まであるんだ」と感心していると、「中国では、すべてに本物と偽物があるんだよ」と友人。けだし名言であろう。
それを聞いて、北京で語学学校を経営する中国人が教えてくれたことを思い出した。
「中国の社会には表と裏がある。ほとんどの留学生は表の中国だけみて帰っちゃうけど」
私もまだまだ中国社会の表面、それも一部しか知らないアマちゃんなのだ。
労働者は偉い?
中国における消費者と労働者との関係は、日本におけるそれとは、全く違う。
河南省洛陽市でタクシーを拾ったときのこと、車が突然、道路脇の工場に入っていき、女性運転手がヤカンに入れた水でエンジン付近を冷やし始めた。
「故障ですか」
「壊れてないけど、なんか振動が大きくて」
客を乗せてない時にやってほしい。やっと再出発したかと思うと、今度は道路沿いで手を挙げていた客を助手席に乗せた。「方向同じだし、ちょうどいいでしょ」。エコといえばエコだが…。運転手は、効率よく2人分の運賃を手に入れた。
また西安の話で恐縮だが、大学内のスーパーで、レジ係のお姉さんが片足を椅子に載せ、片手でメールを打ちながら精算してくれたときはさすがに驚いた。
北京にある日系のコンビニでは、一応「いらっしゃいませ(歓迎光臨)」といってくれるのだが、いっそ言わないほうがいいのでは、と思えるほどぞんざいで面倒くさそうなときがある。陳列中の店員が床に思いっきり商品を放り投げたりもする。日本式おでんの回りに無数のハエが湧いてることも。
「労働者階級独裁」が建前の国だけあって、消費者対労働者の関係では、労働者が大事にされている。たまに横柄なモンスタークレーマーもいるが、概して消費者はおとなしい。会社と労働者の関係においては、その限りではないが。
ただマニュアル化された日本式接客と比べて、中国の接客はおおらかで柔軟だ。食堂で2度同じメニューを頼んだら、次回は顔を見た瞬間に服務員が「肉抜き麻婆豆腐とごはん2つね」と勝手に注文をとってくれる。中国の、そういうところは好きだ。
おしなべて、中国人は仕事の面で「その場限りの顧客」に誠実であろうする意識が薄いと思う。だからといって中国人に誠実さがないわけではない。仲間同士、人と人との間の誠実さ、関係は大事にする人が多いのだ。
パトカーで遊ぶ警官夫婦、学割目的「ニセ学生証」、足投げ出すレジの姉さん、ハエが湧く「おでん」…日本とはあまりに異質で微妙な中国“価値観”
2013.4.27
今年2月に大学の冬休みを利用して中国四川省成都市を訪れた際、非常に驚いたのが、街にゴミがほとんど落ちていないことだった。「道路はゴミ箱」がスタンダードな中国にあって、これがいかに奇跡的なことか。
異質…ゴミが落ちていない成都市
しかも、成都では北京のように観光地や官公庁周辺だけがピンポイントできれいなのではなく、地元民しか通らないような路地裏まで含めて街全体が清潔なのだ。
加えて、人々が律義に信号を守る。街中で大声を出す人も少ない。福建省から成都に移ってきたというタクシー運転手は「成都人はみなモラルが高くて、ポイ捨てする人はほとんどいないね」という。「中国は広い」という言葉を実感した。
逆カルチャーショックを受けた私は北京に戻り、「成都人異質論」を周囲に言って回っているのだが、残念ながら当の成都出身者も含めて、明確な賛同は得られていない。
たまたま私がみた場所、出会った人々がそうだったのだろうか。成都人は、中国人が軽視しがちな系統的思考や物事の保守管理を重視している気がした。大ざっぱで開けっ広げ、あっさりしている黄河沿岸の北方人と比べて、感性も繊細で、なんとなく日本人に近い感じがしたのだが。
偽の学生証
中国で全体的に感じるのは、社会の規範意識の緩さ。取り締まる側の官からして緩いのだ。1カ月間中国語を学んだ陝西(せんせい)省西安市内の大学で、学生寮を兼ねたホテルの駐車場に、いつも警察車両が数台止まっていた。
「留学生の監視でもしているのだろうか」。不思議で仕方がなかったが、ある日、日本人留学生が教えてくれた。
「彼ら、遊びに来てるんですよ。本人に直接聞きましたから間違いないです」
そういえば、西安の街中で、パトカーに乗った私服姿の夫婦らしき2人が痴話げんかしているのを目撃したこともある。
警察車両の私的利用など日本だと大問題になってしまうだろう。韓国人留学生にこのことを伝えても「ありえねー」と同じ反応だった。
また、公安関係者に知人を持つ日本人の話によると、車検や建築物などの検査部門で、賄賂が大いに幅を利かせているらしい。
官からしてこうなのだから、民間は推して知るべしだ。
大学院生の友人が、学生証をみせてくれた。思わず口から出たのは、「それ、うちの大学の学生証じゃないやん」。友人はあっけらかんとしてこう言った。
「買ったんだ」
中国では他校の学生証が買えるのか。聞けば、大学院生の学生証では、観光地の入場券などを購入するときに学割がきかないらしい。大学の学部生ではない若者向けに、この「偽学生証」が売られているのだという。
某大学の東門に行けば、その“密売人”が「学生証いる?」と声をかけてくる。自分の好きな大学の学生証が選べて、持参した自分の証明写真をその場で張り付け、偽のスタンプを押して一丁上がりだ。
「学生証の偽物まであるんだ」と感心していると、「中国では、すべてに本物と偽物があるんだよ」と友人。けだし名言であろう。
それを聞いて、北京で語学学校を経営する中国人が教えてくれたことを思い出した。
「中国の社会には表と裏がある。ほとんどの留学生は表の中国だけみて帰っちゃうけど」
私もまだまだ中国社会の表面、それも一部しか知らないアマちゃんなのだ。
労働者は偉い?
中国における消費者と労働者との関係は、日本におけるそれとは、全く違う。
河南省洛陽市でタクシーを拾ったときのこと、車が突然、道路脇の工場に入っていき、女性運転手がヤカンに入れた水でエンジン付近を冷やし始めた。
「故障ですか」
「壊れてないけど、なんか振動が大きくて」
客を乗せてない時にやってほしい。やっと再出発したかと思うと、今度は道路沿いで手を挙げていた客を助手席に乗せた。「方向同じだし、ちょうどいいでしょ」。エコといえばエコだが…。運転手は、効率よく2人分の運賃を手に入れた。
また西安の話で恐縮だが、大学内のスーパーで、レジ係のお姉さんが片足を椅子に載せ、片手でメールを打ちながら精算してくれたときはさすがに驚いた。
北京にある日系のコンビニでは、一応「いらっしゃいませ(歓迎光臨)」といってくれるのだが、いっそ言わないほうがいいのでは、と思えるほどぞんざいで面倒くさそうなときがある。陳列中の店員が床に思いっきり商品を放り投げたりもする。日本式おでんの回りに無数のハエが湧いてることも。
「労働者階級独裁」が建前の国だけあって、消費者対労働者の関係では、労働者が大事にされている。たまに横柄なモンスタークレーマーもいるが、概して消費者はおとなしい。会社と労働者の関係においては、その限りではないが。
ただマニュアル化された日本式接客と比べて、中国の接客はおおらかで柔軟だ。食堂で2度同じメニューを頼んだら、次回は顔を見た瞬間に服務員が「肉抜き麻婆豆腐とごはん2つね」と勝手に注文をとってくれる。中国の、そういうところは好きだ。
おしなべて、中国人は仕事の面で「その場限りの顧客」に誠実であろうする意識が薄いと思う。だからといって中国人に誠実さがないわけではない。仲間同士、人と人との間の誠実さ、関係は大事にする人が多いのだ。
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