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    日経記者が「AV女優になってはいけない」ワケ

    2014.10.06(11:43)
    日経記者がAV女優になってはいけないワケ 毎年AV2万本を撮影するポルノの首都は

    アダルトビデオ(AV)10作以上に出演していた女性が日経記者だったと週刊文春が報じて、大きな話題を呼んでいる。

    日刊ゲンダイ(電子版)によると、慶応の環境情報学部を卒業後、東大大学院に進んだ才媛で、日経記者だった昨年6月、鈴木涼美のペンネームで「『AV女優』の社会学 なぜ彼女たちは饒舌に自らを語るのか」(青土社)から出版している。

    高学歴の女性がAV女優になるのは日本ではもう珍しいことではない。しかし、性の商品化が堂々と認められている日本は「性の解放が進んでいる」と歓迎すべきなのか、それとも女性は男性の性の対象というオトコ目線の男尊女卑がこびりついてしまっていると恥ずべきなのか。

    今やイケメン男性も性の対象という日本の風俗を英国メディアはどう見ているのか。また、英国社会は女性を性の商品として扱うことをどう考えているのか。

    筆者が英国の情報誌「英国ニュースダイジェスト」に書いた2編を参考にもう一度よく考えていただければと思い、原稿を手直しして転載する。

    伝説のロック・バンド、ビートルズのジョン・レノンと妻のオノ・ヨーコさんが1972年、「Woman is the N***** of the World(女は世界の奴隷か!)」を発表してから42年、どう見ても日本は後退したとしか筆者には思えない。

    BBCに取り上げられた日本のポルノ産業と春画の違い

    (3月20日)

    硬派で鳴らす英BBC放送の深夜報道番組「ニューズナイト」で、日本のポルノ産業で活躍する若者たちが取り上げられた。毎年2万本ものAV(アダルト・ビデオ)が東京で撮影されているというのには驚いた。

    東京はポルノの首都だという。オランダの飾り窓には妖艶な女性が立つが、日本でイベント用に設置された飾り窓では、上半身を露わにしたイケメンAV男優に乙女たちがカメラ内蔵型スマートフォンを片手に殺到している。

    「優しくしてくれない」「物足りない」と現代の日本男児に不満を抱く女性たちがAV男優にドキドキしたり、うっとりしたりする気持ちを求めてサイン会に参加して、DVDを購入していく。

    30秒間限定で憧れのAV男優と会話を楽しめる。女性の5人に1人がAVの愛好者という統計もあるそうだ。「エロメン三銃士」と呼ばれる一徹さんは35歳、有名私立大学の出身で、家庭を持っている。

    AV女優の沖田杏梨さん(27)は英国で暮らしたこともあり、BBCのインタビューにうらやましいほど流暢な英語で答えていた。中国のミニブログ「微博」に勉強中の中国語で書き込み、100万人を超えるフォロワーを獲得。

    ひと昔前までAVと言えば、少し後ろめたい感じがしたが、今は開放的、アジアに広がる新しい成長産業といった空気さえ感じられるのだ。

    杏梨さんのブログをのぞくと、英語で「女という性がなぜ欲望の対象となり、商品化されなければならないのですか」という質問が寄せられていた。これは英国でも良く聞かれる意見だ。

    杏梨さんは「国境を超えて人々はエロチックなものを好みます。これがポイントです。私は恵まれているのかもしれないけれど、幸せ。日本と海外の架け橋になれればと願っています」と答えている。

    中国でも杏梨さんのファンの約4割は女性だという。日本では働く女性が増え、男という性の商品化も進んでいるようだ。

    日本のポルノ産業は時代を超えて、世界に衝撃を与えてきた。鎖国していた江戸時代から「ポルノ先進国」だったのは歴史的な事実である。

    ロンドンの大英博物館で開かれた『春画 日本美術における性とたのしみ』には予想の4万人をはるかに上回る8万7893人が訪れた。

    愛と性の悦びを大胆に表現した日本の春画は幕末に黒船で来航した米国のペリー提督に贈られ、マネやモネなどの印象派、ピカソ、ロダン、ロートレックらに影響を与えたことで知られる。

    キリスト教文化では肉体は恥とされ、ルネサンスでギリシャやローマの古代文化が見直された。それも行き詰まったところに開国したばかりの日本から浮世絵や春画が流れ込んだ。

    春画に魅了されたマネは裸婦を描き、社会の批判を浴びた。当時、英国をはじめ西洋は堅苦しい現実と道徳に縛られていた。性の交歓を謳歌し、自由にその姿を描ける日本は何と開放的で進んだ国という誤解が広がったともいわれている。

    大英博物館の春画展は、日本以上にジェンダーや性の商品化に厳しい英国人女性にも好意的に受け止められたようだ。女性向けに歌舞伎役者の肖像と性器を描いた春画では、陰毛は役者と同じ髪型に整えられ、舞台化粧の隈取りのような血管が魅力的に脈打つ。

    春画には暴力的で強制的な性は出てこない。男性と女性の満ち足りた愛と性のファンタジーが描かれている。それが時代を超えて西洋で支持された理由だった。

    エロメン男優と女優による新しいタイプのAVが人気を集める理由はそこら辺にある。しかし、毎年量産される2万本のAVの大半は暴力的で、女の性を商品化したものであるのは間違いない。一徹さんや杏梨さんはほんの一握りの成功者に過ぎないのだ。

    インターネット上で無料のAVが氾濫、撮影時間は次第に長くなり、出演料はどんどん安くなると杏梨さんは語る。AVに出演しているのは将来、有望な若者、生身の人間である。

    長引くデフレでバイト料が減り、学業と両立できなくなって時間給のよいAV業界に飛び込む女性も少なくないという。「失われた20年」といわれる経済無策が若者の将来と日本の未来を蝕んでいる。

    それでも失業率は4%を切って3.7%まで下がっている。この矛盾をどう説明すればいいのか。ほのぼのさせられた春画展と異なり、BBCのニュースを見ていて無性に悲しくなった。

    「ページ・スリー・ガール」の運命やいかに

    (9月18日)

    英国名物の一つに大衆紙サンの表紙をめくって3ページ目に掲載されている女性モデルのトップレス写真がある。名付けて「ページ・スリー・ガール」。

    7年前に新聞社のロンドン特派員としてロンドンに赴任した筆者は毎朝すべての新聞を隈なくチェックするのが日課だった。「ページ・スリー・ガール」にはほぼ毎日お目にかかっていた。

    地下鉄に乗っていると、シティーで働くトレーダーが高級紙フィナンシャル・タイムズの中にサン紙を挟んで、こっそりページ・スリー・ガールを鑑賞している姿を何回か目撃した。

    サン紙の姉妹紙である大衆日曜紙ニュース・オブ・ザ・ワールド(廃刊)の盗聴事件を機に新聞の慣行や倫理を検証した独立調査委員会(レベソン委員会)で、サン紙の編集長は「ページ・スリー・ガールは無害な英国の制度で、もはや英国社会の一部だ」と公言した。

    ジョン・レノンとオノ・ヨーコさんが1972年に発表した「Woman is the N***** of the World(女は世界の奴隷か!)」の歌詞は女性の解放と自立がテーマになっており、タイトルが「ニューズ・オブ・ザ・ワールド」を連想させる。

    ジョンは、女性の自立を訴えるヨーコさんの影響を強く受けた。(筆者の記憶では、ヨーコさんが「どうして英国の新聞には女性の裸が掲載されているの」と尋ね、ジョンが「英国にはそれを楽しみにしている階層の人たちがいるからだよ」と答えたというエピソードが残っていると思うのだが、自宅に残っている資料では確認できなかった)

    もともとページ・スリー・ガールは堅苦しくて保守的な英国の文化でも、伝統でもなかった。オーストラリア出身のメディア王、ルパート・マードック氏が1969年11月に買収したサン紙の発売部数を増やすため、ちょうど1年後に掲載したのが始まりだ。

    最初は空いた紙面の埋草企画で、片方の乳房がのぞく控えめな構図だった。

    マードック氏に買収される前まで、サン紙は、科学や宗教、国際政治について深みのある長文の記事を掲載する硬派の新聞として知られていた。

    しかし、マードック氏がセックスとスキャンダルを中心に紙面展開し、ページ・スリー・ガールも両方の胸を丸出しするなど大胆になってきた。

    一部の地方自治体が公立図書館からサン紙を排除すると、「ぺ◯スの表面にできたニキビ野郎」と大げさに反発してみせ、ミニスカートのサン・ガールズに追いかけ回される78歳の老首長の写真を掲載する一大キャンペーンを張ったのだ。

    第二次大戦で大英帝国は崩壊、長期の停滞期に入り、重苦しい空気が垂れこめていた英国社会は憂さ晴らしを求めていた。ページ・スリー・ガール効果でサン紙の販売部数はわずか1年で倍増し、250万部を超える。

    しかし、ドル箱企画になったページ・スリー・ガールにも曲がり角が訪れる。TVのリアリティ番組ではカップルが箱の中に入って性行為を行い、インターネットではアダルトビデオの動画が氾濫する。

    ページ・スリー・ガールは今年9月に入って4日連続で紙面から姿を隠し、マードック氏が「ページ・スリー・ガールは時代遅れだ。流行の服を着た方がもっと魅力的になるのでは? あなたの意見を聞かせてほしい」とツィートした。

    ロンドン五輪が開かれた2年前の夏、ページ・スリー・ガールは一時、かなり後ろのページに移された。

    その出来事をきっかけに女優のルーシー=アン・ホームズさんは「ノーモア・ページ・スリー」というソーシャルメディア・キャンペーンを始めた。ホームズさんは英メディアに「サン紙のサイトを訪れるユニークユーザーは月に3千万人。うちページ3は140万人に過ぎない」と語り、マードック氏の変化を歓迎した。

    ホームズさんは11歳のとき、兄が買ってきたサン紙にショックを受ける。「豊満な乳房を見て、何だか自分は足りないような気に襲われた」そうだ。

    レイプ魔が犯行中に「ページ・スリー・ガール」を口にしたという報告もある。女性を性の対象として見下す文化を終わりにするためキャンペーンを始めるとホームズさんが宣言したとき、父親は「サン紙に人格破壊されるぞ」と大反対した。

    ページ・スリー・ガールを禁止する法律をつくろうとした労働党の女性下院議員が「興ざめ」「嫉妬」「肥満」とさんざんサン紙にたたかれたことがあるからだ。

    ページ・スリー・ガールは健在だ。2年前の世論調査では、サン紙読者の61%が存続を求め、中止は24%。全体では存続が32%、中止が49%。

    マードック氏がいくら「時代遅れ」と感じても、「やめれば販売部数が下がる」と現場が判断しているうちはページ・スリー・ガールはなくならない。

    (おわり)
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